2026年10月1日からカスハラ対策が全事業主の義務に。医療・介護現場で悩ましいのは「病気による言動」との線引きです。医療ソーシャルワーカー歴11年、社会福祉士・キャリアコンサルタントでもある札幌の社会保険労務士が、現場が迷わない体制づくりを解説します。

 

「患者さんのご家族から、毎日のように長時間の電話が続いている」「利用者さんに怒鳴られたけれど、認知症の方だから仕方ないと言われた」。医療機関や介護施設の方から、こうしたご相談をいただくことが増えています。2026年10月1日から、カスハラ(カスタマーハラスメント)対策が事業主の義務になりました。今日は、医療・介護の現場ならではの難しさと、組織としての向き合い方をお話しします。

2026年10月1日から、カスハラ対策は「すべての事業主の義務」に

改正労働施策総合推進法により、カスハラ対策は、パワハラ対策と同じ「雇用管理上の措置義務」になりました。職員を1人でも雇っていれば対象です。国の指針では、カスハラの行為者となる「顧客等」に、病院や福祉施設の利用者、そしてサービス利用者のご家族もはっきり含まれています。医療・介護の現場は、まさにど真ん中の対象と言えます。

事業主に求められるのは、①方針を明確にして職員に伝えること、②相談体制を整えること、③起きたときに迅速・適切に対応すること、そしてパワハラ対策にはなかった④特に悪質なケースへの対処方針(抑止のための措置)を決めておくこと。あわせて、相談した職員のプライバシーを守り、不利益な扱いをしないことも求められます。

医療・介護のカスハラ対策が難しいのは「病気による言動」があるから

一般の企業と違い、医療・介護の現場には、病気や障害の症状として強い言葉や行動が出てしまう方がいらっしゃいます。ここを整理しないまま「カスハラには毅然と対応」とだけ掲げると、現場は「この方の暴言は症状なのか、カスハラなのか」と迷ってしまいます。そして結局、「利用者さんだから我慢しよう」で終わってしまう。これが、医療・介護のカスハラ対策でいちばん多いつまずきです。

症状としての言動は「ケア」で向き合う、でも職員に我慢はさせない

厚生労働省の介護現場向けの資料では、認知症などの症状として表れた言動(BPSDなど)は、ハラスメントとしてではなく、医療的なケアによって向き合う必要があると整理されています。また国の指針でも、カスハラに当たるかどうかは、言動の内容や態様、経緯、業種・業態、職員の心身の状況など、さまざまな要素を総合的に考えて判断するとされています。ご要望そのものが正当な申し入れであれば、カスハラには当たりません。

ただし大切なのは、「カスハラではない」ことは「職員が我慢する」ことではない、という点です。症状による言動であっても、一人で対応させない、ケアの方法をチームで見直すなど、職員の安全を守る工夫は欠かせません。一方で、ご家族からの理不尽な要求や暴言は、ご本人の病状とは切り離して考える必要があります。

線引きを「現場の一人」に任せない仕組みづくり

症状なのか、カスハラなのか。その判断を、その場にいた職員一人に背負わせないことが、いちばん大切です。そのためには、まず記録の残し方をそろえること。「何が起きたか(事実)」と「職員がどう受け止めたか(気持ち)」を分けて書き、言われた言葉はできるだけ正確に残します。国の指針でも、事実確認の際には相談者の心身の状況や受け止めに配慮することが求められています。そのうえで、医師や看護師、相談員を交えたカンファレンスなど、組織として判断する流れを決めておく。記録と判断の流れがあれば、職員は「自分が悪かったのかも」と一人で抱え込まずに済みます。

病状と、働く人の気持ちの両方を見てきたからこそ

私は社会保険労務士になる前、病院で11年間、医療ソーシャルワーカーとして働いていました。認知症や病気を抱える患者さん、不安を抱えるご家族、そして板ばさみになりながら踏ん張る職員の皆さん。その全員に近い場所にいたからこそ、「どこまでがケアで、どこからが組織として守るべき場面か」を、現場の実感をもってお伝えできます。社会福祉士・キャリアコンサルタントとしての視点と、社会保険労務士としての制度づくりの両方から、お手伝いできるのが私の強みです。

北海道労働局の説明資料・説明動画も参考に

北海道労働局では、今回の法改正についての説明会資料をホームページで公開しているほか、説明動画もYouTubeで配信しています。国の指針の内容や、カスハラに当たる言動の具体例がまとめられているので、管理者の方はぜひ一度目を通してみてください。そのうえで、「自分たちの施設ではどう線を引き、どう動くか」に落とし込むところが、各施設での大切な仕事になります。

【参考】北海道労働局 説明会資料・説明動画

北海道労働局 改正労働施策総合推進法等説明会資料(PDF)

 

「利用者様だから我慢」をなくすことは、ケアの質を守ること

カスハラ対策は、患者さんや利用者さんを遠ざけるためのものではありません。職員が安心して働けてこそ、落ち着いた、質の高いケアを続けられます。反対に、我慢が積み重なった現場では、離職が続き、残った職員の負担がさらに増えてしまいます。職員を守る体制づくりは、患者さん・利用者さんを守ることでもあるのです。

札幌市で医療・介護のカスハラ対策のご相談はOffice You Key 社会保険労務士事務所へ

「義務化に向けて、何から手をつければいいか分からない」「病気による言動とカスハラの線引きを、現場で迷わないようにしたい」という札幌市・北海道の医療機関、介護・福祉施設の皆様へ。Office You Keyでは、医療ソーシャルワーカー歴11年の社会保険労務士が、カスハラ対応方針や相談体制、記録様式の整備から、現場で使える職員研修まで一貫してお手伝いします。企画・お見積りは無料で承っております。まずはお気軽にご相談ください。